ラブライブ!ナンバリングシングル考察
ラブライブ!のナンバリングシングルは1stの『僕らのLIVE 君とのLIFE』(2010年)から6thの『Music S.T.A.R.T!!』(2013年)までの6つが知られています。
※ファイナルシングルと銘打たれてナンバリングシングルとして数えてよいものか世間的にはグレーゾーンまたは認める扱いな『MOMENT RING』(2016年)は単純にスクフェスコラボやアニメ劇中歌などを含めた中での最後のシングルという意味でしょうし、MVはおろかCDドラマすら収録されていないのでナンバリングシングルとして数えるのは最大限ハードルを下げて考えても妥当ではないと考え、除外します。
その6つのシングルに限って見ても、全てが初期からの流れを汲むと考えられるとはいえません。
まず1stの『僕らのLIVE 君とのLIFE』(2010年)から2ndの『Snow halation』(2010年)までは問題ないでしょう。
内容、音声ドラマの内容、楽曲の歌詞や曲調、総選挙の有無などを見ても問題はないと思います。時期的にもシリーズアニメ化のシの字もアの字もない頃です。
この時点でのμ'sのキャラクター達の姿は、邪気がなく、いい意味で普通の女子高生やアイドルとしての魅力に溢れてるように思います。
1stシングル『僕らのLIVE 君とのLIFE』(2010年)&2ndシングル『Snow halation』(2010年)Music Video
初期のキャラデザは微妙だったなんて無知で思い入れも視力もない輩にしたり顔で言われることの多いラブライブ!ですが、MVにおけるキャラクターデザインは キャラや好みによってはむしろ1st&2ndの頃がピークなのではと感じられるくらいに質が高いです。
穂乃果:アニメの誰かのような暑苦しい雰囲気や少女らしい魅力に欠けたような様子はなく、純粋な少女としての元気な可愛さに溢れてます。
海未:清楚な大和撫子といった雰囲気が強く、アニメの誰かのようなコミカルで真面目を気取っただけの怒りっぽいおばさんみたいな様子はありません。
真姫:アニメの誰かのような高貴さの削げ落ちた斜に構えているありふれた単純なツンデレ女みたいな様子はなく、ハッタリや強がりではない自信に溢れた表情と女子高生離れした気品が感じられます。
希:アニメの誰かのような関西のおばちゃんでもイメージしたかのような腫れぼったさの過度な主張はなく、お茶目な可愛さと人格の柔和さを兼ね揃えたデザインになっています。
にこ:アニメの誰かのような邪気は感じられません。あざとい表情やポーズの時でも、アニメの誰かのような可愛さのアピールとは思えない小物芸人や小悪党のようなダサさや気色悪さは皆無です。
絵里・ことり・凛・花陽は上記の人達に比べるとアニメのキャラデザや表情作りで著しく劣化させられたわけではないですが、全く問題のない可愛さです。
特に凛は穂乃果、真姫、にこと並んで初期からキャラクターデザインが完成されていて、安定して美しく可愛いデザインで描かれています。天真爛漫さと、アニメ以前では既に備わっている少女らしさも表情や仕草から伝わります。
一方で、花陽や海未、絵里に関しては初期1st&2ndだと髪型と顔とのバランスがあまりよくないように見える時があることも否めません。その点については3rd&4thの頃に安定し、ピークに至ったと思います。
1stシングル(2010年)ジャケット
2ndシングル(2010年)ジャケット
1st&2ndシングル、それぞれのジャケット画像も作画・デザインの出来は賛否ありそうなものもありますが、アニメの誰かたちのような気色の悪い邪念みたいなものがキャラクターから感じられない、愛せるアイドル、愛してほしがってるアイドルらしい様子で心地の良いものです。方向性に曇りや濁りは認められません。
3rdシングル『夏色えがおで1,2,Jump!』&4thシングル『もぎゅっと"love"で接近中!』は、楽曲の品質もMVの構成演出、キャラクターデザインも各キャラを平均して見てピークだったと思います。そして1st&2ndを含め、4thシングルまでのこの頃がラブライブ!やμ'sがもっともラブライブ!らしく、μ'sらしかった頃だと思います。
しかし一方で、4thシングルというのは発売時期が2012年2月15日だという点から疑惑が生じます。
ラブライブ!のシリーズアニメ化が発表されたのは声優によるファーストライブイベント 『ラブライブ! μ's First LoveLive!』が最初でした。
そのライブイベントの開催日は2012年2月19日。
4thシングル発売のわずか4日後です。その4日後にシリーズアニメ化決定という情報を告知できるということは自然に考えるとシングル発売の前からシリーズアニメ化に向けた話し合いや交渉が行われていた可能性が高いといえます。
それがどの程度前からだったのか、4thシングルや4thシングルMV、4thシングルCDドラマの内容にどの程度影響を与えたのかというのは分かりませんが、可能性として0とは到底言いにくいことが分かります。
そのFirst Love Live!におけるライブドラマのキャラクター設定が、若干アニメに近付いている部分がある点についても考慮対象になるかもしれません。主に絵里など。
ただその頃は鴇田アルミ先生の漫画版も連載して間もない頃であり、むしろその漫画版の設定に近いともいえるので、漫画版のプロジェクト開始とアニメ化プロジェクト開始が同時だったかどうかなどが気になる所ではあります。
μ'sの矢澤にこというキャラクターは最もアイドルとしての自意識が高いキャラクターで、アニメの誰かのような崩れた表情、少女らしくない表情は滅多に見せないキャラクターです。可愛いものが大好きで、可愛い自分のことも大好きなため、自分の可愛くない姿は当然見せたくないし見せないように努力するプロフェッショナルなアイドルなため、それを表すようにMVの表情もジャケットや雑誌グラビアの表情も実にアイドルらしく可愛さをアピールする理想的表情や仕草をしています。
3rdシングル『夏色えがおで1,2,Jump!』(2011年)ジャケット
自身が総選挙1位を獲得しセンターを務めた3rdシングルまでは。
ただ、3rdシングルにも若干怪しいと思える点があります。
それはMV内の一コマです。とあるアニメでもこのシーンのパロディがありました。
3rdシングル(2011年)MV
この表情や行動はアニメの誰かにパロディされるだけあって、アニメの誰かに近いものだと思います。
ただ、いたずらっぽい行動や言動というのはアニメ以前のにこでもよく見られる行動で、そのいたずらっぽい小悪魔っぽさやお茶目さとなるか、小汚い小悪党っぽくなるかの線引きが重要です。そしてそれを大失敗して小汚く気持ち悪い小悪党を出演させたのがアニメであり、そこからアニメ以前などについてもいつから別人が出演し始めたかと疑心暗鬼になって検証しているのがこの考察なのですが。
また、2011年8月24日発売の時系列的な部分でいえばアニメ化発表すらまだまだ先の段階で怪しさはほぼありません。
それから、アニメ以前の作中のにこの立ち位置がアイドル活動の参謀役、アドバイザーやプロデューサー的だったことなどから考えるとこのシーンもPVの1シーンを盛り上げるための演出として考えた行動などと考えることもできます。
3rdシングルに限らず、μ'sのMVの絵コンテや演出をメインで行っていたのは、アイドルに詳しく、アイドルのMVを見てきたにこである可能性が高いと思われます。
次に4thシングル。4thシングルは楽曲もいいのですがおそらく総合的に最高傑作といえるMVが魅力です。ただ一方で気になるのが、このMVでは百合を想像させる表現が用いられたことです。
矢澤にこ&西木野真姫のにこまきカップリングは主にアニメ化以前の初期から人気が高い百合カップリングの1つでした。
1stシングルMVでも2人が共に登場する場面があり、そこから想像を働かせた人も少なくないのでしょう。
1stシングル(2010年)MV
他にも雑誌や音声ドラマ等の絡みで性格の相性からにこと真姫がやり合う図は魅力的に映り、そこから人気が出たというのが恐らく妥当でしょう。また容姿の相性が絶妙だった所も影響していると思われます。
余り物コンビなんて言われたりもしてましたが、アニメ以前には希が生徒会副会長という設定を持つ媒体はなく、希と絵里の結び付きは強くありませんでしたし、ことほのうみ2年生組の結び付きもそこまで強調されていなかったため、余り物コンビと言われ出したのがいつなのか定かじゃありませんが、アニメ前後からだとしたら矛盾が生じます。
そのようにラブライブ!を題材とした百合はそれなりに人気がありましたが、ラブライブ!は本来読者参加企画であり、(主に男性の)ファンである読者の愛を求め請うスタイルの作品・キャラだったため、基本的に他のキャラクターやカップリングにしてもそうですが、より具体的に百合らしさを明示するような絡ませ方はありませんでした。
それが4thシングルのMVではその百合人気に影響を受けたかのような描写が登場します。
4thシングル『もぎゅっと“love”で接近中!』(2012年2月15日)MV
このあたりからも若干作品の方向性に揺らぎが見えてきて、今にして思うと不穏に感じます。
※筆者自身はアニメ以前、原案に限りにこまきも好きですし、百合も好きです。でも百合じゃないのも好きです。
そして、4thシングルで最も怪しいのはジャケットです。
4thシングル(2012年2月15日)ジャケット
おわかりいただけただろうか。
もぎゅっとの方(左)は百合推しな点以外には怪しい様子はありませんが、愛してるばんざーい!の方(右)です。
このにこの表情が、実にアニメの黒髪ツインテールの誰かのような生意気な表情です。
単に作画担当の絵が下手だとかキャラクター&作品に対する認識が酷かったというだけの話なのかもしれませんが。
日常の一コマならたまにはあるかもしれませんが、矢澤にこというキャラクターはジャケット撮影というアイドルにとって重要な一コマにおいてこういう表情をする人ではないので、アニメ化の影響がこの頃から既にあるのでは…という疑念を抱いてしまいます。
そして決定的に狂いが生じているのが5thシングル『Wonderful Rush』(2012年9月5日)です。
2012年9月5日という発売日から分かるように、シリーズアニメ化発表から7ヶ月近く経過し、この頃には2013年1月から放送が開始するシリーズアニメの内容についての話し合いや具体的な製作状況などがかなり温まってきた頃だったと思われます。
まず5thシングルについてですが、楽曲自体悪くはないのですが、奇を衒うことに舵をを切りすぎた感じがあります。センターが女の子らしさナンバーワンの南ことりでありながら、勢い重視の曲調でことりセンターにあまり似合っていない所も疑問が生じます。
また、特徴的なラップ部分。主に矢澤にこにラップを担当させています。声優を担当する徳井青空さんがラップ好きだそうですが、そこから影響されたのかと思わせます。
しかし、矢澤にこにラップというのはあまり似合いません。ただでさえ似合わないのにラップの仕方も声優がラップ好きなだけあって上手くて様になってる分余計ににこに似合わない歌唱になっています。
そのような声優、いわゆる中の人に引っ張られて曲作り、作品作りをしてしまうという要素が5thシングルから表れていたのではと思えて、顔をしかめてしまう部分です。
そもそも、矢澤にこというキャラは当時において徳井さんの演じる役のバリエーション外のキャラで、キャラを考えるともうちょっと高くて澄んだ声の方の方がよさそうに思いますが、彼女の作品愛とキャラ愛、声優としてのプロ意識でカバーしていました。キャラや作品のために声優が頑張るという当たり前のことながら理想的な姿勢です。しかしそれをやらずキャラや作品を声優に合わせて劣化させるのがラブライブを筆頭とする昨今のアニメ界、声優界です。
その高い意識と努力を台無しにしたのがアニメ以降のキャラ改悪で、あのアニメの矢澤は声質的に徳井さんが無理なく出せる声の範囲内に収まり、役柄としてもアニメ版ミルキィホームズのネロのようなキャラクターへと変化させられたためにあのキャラを演じたことによって徳井さんの評価が高まることもありませんでした。その点でも残念です。
4thシングルから怪しくなりはじめたジャケットですが、5thシングルでもやはり怪しい表情が出てきます。
5thシングル『Wonderful Rush』(2012年9月5日)ジャケット
この表情、そもそもキャラデザや作画が狂ったというだけともいえますが、本来のにこらしさのない顔、表情です。
「~にこ♡」なんて話すタイプではなく、「~よね!」「~しなさいよ!!」みたいなタイプの生意気臭い女風の顔に変化しています。
アニメの矢澤は頻繁にクズとかゲスとか蔑称がつけられて呼ばれていましたが、そういうレッテルが似合ってしまいそうな系統の表情です。
また、アニメの東條もふくよかな体型や風貌からいろいろと蔑称がつけられてしまうようになりましたが、4th以降からそのような腫れぼったい顔になっていってしまいます。
アニメ派的にいえば4thからアニメのキャラデザに近付き、5thでは殆どアニメと変わらなくなるので4thと5thが最高みたいな感じになるのかもしれませんが、原案派としていえば逆の理由で4thはグレーゾーン、5thはほぼアウトです。
そして、5thシングルの怪しさを最も表しているのがMVの内容です。
5thシングル(2012年9月5日)MV
実にアニメの矢澤っぽい行動と表情じゃありませんか。
上の真姫のサングラスを奪うシーンはアニメでポテトやハンバーガー(は未遂ですが)を盗んだシーンとつながるとも解釈可能で、アニメの影響下にあったことを思わせます。
まあ、従来のにこと真姫の絡みでも、あの程度の絡みはあり得るのですが、表情がおかしいですね。奪う前後の悪い感じの笑みの仕方に違和感があります。
そして飛行機のチケットのシーンの表情が一番衝撃的ですね。アニメの矢澤らしさがあります。
あと劇中で、ことりが枕を忘れたという下らないこと(本人にとってはとても大事ですが…)でトラブルメーカー的な扱いに見えるようにされてることからもアニメ1期イズムを感じます。
他にも各種演出、キャラの挙動などからアニメ1期からの気持ち悪い京極尚彦&gleeワールドが5thシングルMVから開演してしまっているという印象が強いです。
にこが疲れて不機嫌な表情や扱いなこと、絵里の振り向く動き、凛の派手な挙動、真姫とにこの絡み方、希のスピリチュアルお祈りなど、シーンの入れ方や見せ方などが、本来の流れを断ち切って気持ち悪く堕落したアニメ1期以降の演出・世界観のようです。
京極尚彦監督がgleeや海外ドラマを意識盗作したらしいこういう演出については好みでしょうが…ラブライブ!には合わない、μ'sには合わないと思います。加えてアニメ以降の劇伴音楽もgleeを意識して作ってという依頼で作られたようですが合っていません。
それを認めるかのように、シリーズアニメ企画の始動に合わせてキャラクター設定や作品世界観・設定を監督らが盗作したい内容に合わせて変えたわけですから…。
そのような点を見てもやっぱり5thシングルは汚点が多い作品という感じがします。
5thシングルの頃からキービジュアルにしても特に矢澤から意地汚さが垣間見える顔のデザインになっていますが、完全に体制がアニメ基準に移行したのが4th~5thの頃だったのだろうと思われます。
少し擁護もしておくと、原案の公野櫻子先生が一番好きなのはWonderful RushのMVらしいです。元気が出るし白い衣装がお気に入りとのこと。
ただ、シングルMV全体についての感想で「もっとソフトなダンスをイメージしていたらキレキレで踊ってることにビックリ」と語っていることからも、MVの内容には公野先生が携わっていない可能性が高いですね。
6thシングル『Music S.T.A.R.T!!』(2013年)のMVやOVAなどについては時系列的にも完全にTVアニメ以降であり、設定等がTVアニメに侵食されていることがよく分かる作りで論外なので省略しますが、5thシングル同様にせっかくセンターに選ばれたキャラ、真姫に合っている曲といえるのかという点が残念ですね。ラブライブ!μ'sの西木野真姫ではなく、アニメの誰かさんに合わせたと考えると合ってるのかもしれませんが…。
最後になりますが、スタッフクレジットだけ見ても4thシングルと5thシングルの間から本格的に体制が変わったということが分かる部分が存在します。
1st~4th
5th~6th
ピックアップすると
1st~4th
5th~6th
Aqours 1st~2nd (参考)
と、音響監督と音楽プロデューサーの担当者が4thと5thの間で変わっているんですね。
明田川仁氏は4thシングルまで音響監督を担当、長崎行男氏はラブライブのTVアニメから現行のサンシャインシリーズに至るまで音響監督を担当しています。つまり長崎氏が担当をし始めた5thシングルからはTVアニメの体制に完全に入っていると見ることができます。
また、音楽プロデューサーが斎藤滋氏から伊藤善之氏に変わった頃からキャラクター性や作品性を軽視した音楽となり、音楽的に劣化が始まった所も偶然ではないのかもしれません。音楽のネタ切れという要素もあると思いますし、5thシングルのc/wはセンター花陽にも合っている曲でμ'sらしい良い曲なようにも思いますが。
細かい所なようで、しかし実際の内容の変化の結果、時系列的な状況を考えてみてもその間に様々な変化があるということですから無関係とはいえないでしょう。
邪推してみれば4thシングルまでは全力でμ'sとラブライブ!のクオリティを高めるために三社合同で頑張っていたのが、アニメ化決定以降はシリーズアニメプロジェクトとなると長期プロジェクトになるため、その影響もあるのでしょうが、スタッフ陣の整理や変更が行われる中で体制が変化したのではとも考えられます。
そしてその結果があの酷い有様のキャクターデザイン、キャラクター設定に脚本に演出に劣化した楽曲群。おまけに盗作疑惑も付けておきましたという、まともに企画を統括している人がいたとは思えない状況を生み出したのでは、なんて…。
2ndまで、せめて3rd~4thまでの体制が維持できていたら、ラブライブ!とμ'sは名実ともに本当に素晴らしい作品、素晴らしい企画になっていたのではというやるせなさが募ります。
まとめ
真正ラブライブ!、真正μ'sのナンバリングシングルとして認められるだろう作品
1stシングル『僕らのLIVE 君とのLIFE』(2010年8月13日/8月25日)・・・100%
2ndシングル『Snow halation』(2010年12月22日)・・・100%
3rdシングル『夏色えがおで1,2,Jump!』(2011年8月24日)・・・90%
4thシングル『もぎゅっと“love”で接近中!』(2012年2月15日)・・・80%
5thシングル『Wonderful Rush』(2012年9月5日)・・・10%
6thシングル『Music S.T.A.R.T!!』(2013年11月27日)・・・ーー(論外)
(12/12 追記)